Aya Yoshida

The Journey series 

Composer
Denmark and Netherlands
www.ayayoshidacomposer.com
@ayayoshidacomposer

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創作活動に取り組むとき、インスピレーションはどのような形で得られるのだろうか。作曲家 吉田文にとって、インスピレーションは、別の時間(軸)に連れて行ってくれるようなものや場所、「何もしない」時間、あるいはそれらを観察する時間に見出すことができるようだ。

6歳から作曲を始めた吉田文は、細部に目と耳を傾けた哲学的なアプローチを持つ。彼女の作曲は、記憶の力や故郷の定義といった心に響くテーマを探求している。また、呼吸と呼吸の間(ま)、ダンサーの身体的重力と彼らの身体的動作が生み出す音など、あまり注目されないような瞬間にも取り組んでいる。

最新作であるデンマーク王立管弦楽団創立575周年記念委嘱作品のデビューを控えた彼女が、私たちとそのストーリーを分かち合う時間を作ってくれたことにとても感謝している。彼女の思慮深い回答は、彼女が各作品に取り組む際の意図性を反映しており、大変興味深いものとなっている。

呼吸や重力がどのように音楽の流れを導くのか、音楽がどのようにつながりや「故郷」の感覚を生み出すのか、そして「クリエイターのワークアウト」について彼女に話を伺った。

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Aya is wearing her favorite Signature pieces, the Dolman Shirt, Wide-Legged Trouser, and Quilted Vest.

7115: 今日はありがとうございます。今いる場所と、今日のハイライトを教えてください。

Aya: みなさま、こんにちは。私は今、オランダの自宅にいます。私の音楽はまさにこの場所で生まれています。今朝は8時ごろ、とても美しい日の出を見ました。淡いピンクとオレンジが混ざり合った瞬間はとても綺麗でした。過去数年間デンマークで長く暗い冬を経験してきたからかもしれませんが、今日も陽が昇るのだと思うと、少し安心します。

7115: 作曲の勉強を始めたのはとても若い頃ですね。音楽に関する一番古い記憶は何ですか?何か特定の楽器ではなく、作曲を学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

Aya: 私は6歳の時に作曲を始め、最初の作品は『人魚姫』という曲でした。これはデンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの物語に触発され書いたものです。とても短いピアノ曲で、自身で演奏をして発表した記憶があります。当時のピアノの先生は、私にピアノの指導と並行して作曲をご指導くださいました。先生はいつも私に自分の作品を自分で演奏するという課題を与え、これは今日作品を創作する際に非常に重要な教訓となっています。おそらく、彼女の意図は私を演奏者の立場に置くこと(演奏者の立場に立って作曲すること)だったように思いますが、当時の私のピアノ演奏の技術はまだまだ未熟なものだったため、私は「より良い音楽」を作るために、ピアノ演奏技術を向上させるしかありませんでした。(これも先生の意図だったのかもしれませんが。)

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7115: あなたのソプラノと弦楽四重奏のための作品『Myriader af tabte minder(失われた無数の記憶)』は、昨年8月にデンマークで行われたRudersdal Sommerkoncerterで世界初演されました。ソーシャルメディアであなたは、「永遠に失われた故郷への旅(...)」というとてもプライベートなテーマについて作品を創作することがいかに困難であったか、そしてその創作自体がが自身にとっていかに価値を持つものであったかを語っています。このテーマはあなたにとってどのような意味を持ちましたか?

Aya: この作品を書くことは私にとって大きな意味を持っていました。作品は、デンマークのソプラノ歌手リー・トランの失われた幼少期の記憶についてです。彼女はベトナムで生まれ、家族とともに6歳のときに、7日間の航海を経てボート難民としてデンマークにやってきました。デンマーク語が彼女の”母国語”であり、彼女は今でもベトナム語を話しますが、自身がデンマーク語を話すようになる前の記憶はありません。つまり最初の6年間の記憶を失っているのです。

正直、この非常にプライベートな家族の歴史を音楽の形で私が作品として描写することが本当に良いのかどうか、何度も悩みました。それを音楽作品にすることは、過去の「曖昧でありながら美しいその記憶」を、ある意味とてもわかりやすく明るみに出すことになるからです。

私たちはしばしば「忘れること」に対して否定的な感情を抱きます。しかし、リーはいつも私に、忘れること、忘れたことに対してポジティブな感情もネガティブな感情も持ないと言います。これは私にとってとても新鮮な価値観でした。

この作品を書くことは、彼女の失われた6年間を再現することでも、彼女の故郷への帰り道を探すことでもなく、ただ忘却の美と対峙し続ける旅でした。それはとても長く忍耐力のいるものでした。

この作品を描く過程で、私自身、移民として生きる者として何を伝えることができるのか、そして私の故郷はどこにあるのかを考えていました。明確な目的地のないこの創作の旅で感じた感情は、私自身がこれからの人生の中で、持ち続け、探し求め、追い続けていくものだと思います。忘れることは美しい。覚えていること、そこにあったかもしれないことを思い出すこともまた、美しい。

7115: 母国である日本を離れ、コペンハーゲンとオランダに拠点を移して約10年が経ちました。今のあなたにとって「故郷」とはどのような場所ですか?


Aya: 最近、この疑問が頭の中でよく引っかかっています。私の「故郷(帰る場所)」はどこにあるのか、と。ヨーロッパでは、私の生い立ちが少し特殊に映るため、この質問をされることがよくあるんです。私が「故郷」に感じるのに必要な要素は「言語」です。つまり、そのコミュニティや国に生きる人々との「共通言語」を持っていれば、そこがどこであれ、故郷になり得ると思っています。帰ってきてもいいんだ、と感じられる場所になり得ると思うんです。しかし、その言語が必ずしも「言葉」である必要はありません。それは芸術(創作物)、他者への寛容さ、革新的で新しいものへの好奇心、その土地に根付く土着のものへの尊重、もしくは私自身の存在自体がその(共通)言語になり得ると思っています。

7115: この「故郷」という概念を念頭に置きながら、音楽界や文化的な面において、さまざまなコミュニティに属することは、あなたの創造的な視点をどのように形作ってきたのでしょうか?

Aya: 作曲をすること自体が故郷を探す行為に似ているかもしれません。それはその場所で、他者との共通言語を見つける行為であり、その場所に根付く普遍的な音楽を生み出すことで、そこに自分の居場所を見つけ出すことだと感じているからです。私の「故郷感」が年々薄れてきているため、最近物事をより達観して見る傾向にあるようです。

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7115: この春、世界最古のオーケストラであるデンマーク王立管弦楽団の575周年記念式典の一環として、委嘱作品が世界初演されます。素晴らしいですね!新しい作品に取り掛かるとき、あなたの創作過程はどのようなものですか?また、空間や物理的な創作環境は、あなたの創作過程やアイデアにどのような影響を与えますか?

Aya: デンマーク王立管弦楽団から、彼らの575周年を祝うための委嘱のお話を頂戴した際、若輩者でまた、かつデンマーク人ではない私にとって正直非常に驚きました。普段、意図的に自分のアイデンティティや個人情報(日本人性)を音楽に取り入れることはあまりありません。創作にその(意図的な個人情報の操作の)必要性を感じないんです。しかし今回は、直接的ではなくとも、自分の個人の生い立ちやアイデンティティの痕跡を作中に残すことに興味を持ちました。575年という長い歴史に対峙した時、どこかそれが必要だと直感的に感じたのです。この長く、悠久の歴史の中に私の音楽が刻まれることは、本当に光栄なことだと感じています。この作品が、次の500年も残る普遍的な音楽になりますこと願っております。

2023年の夏、その時期は、特にJ.L.ボルヘスの作品をよく読んでいたことから、記憶の詩的な操作に興味を持っていました。私はデンマークのユトランド島にあるかつての中世の修道院を改修したアーティスト・イン・レジデンスにて作品を書き始めました。デンマークのユトランド島の中世の風景は、オーケストラ創立時の過ぎ去った時代を彷彿とさせました。

彼らの創立575周年を祝う祝祭曲として、575という数字(数列)を様々な形で作中に取り入れています。またこの作品は、この数字だけではなく、オーケストラの音の歴史も(その回想として)引用しています。1448年にトランペット隊として創立されたこのオーケストラの歴史を踏まえ、この曲はトランペットとトロンボーンが曲全体を牽引するダブルコンチェルトのような形で構成されています。また、5-7-5という数字の並びは日本人にとって大変特別な意味を持つ数字で、日本の俳句の形式です。俳句は、通常3行からなり、それぞれが5-7-5の音節数、合計17音節で構成される伝統的な日本の詩型です。そこに7-7を追加しました。(7-7=0という意も込めて。)これは短歌と呼ばれる詩型で、短歌は、5-7-5-7-7の計31音節から成ります。作品のタイトルは『5-7-5(7-7)』としました。タイトルの読み方は決めていませんが、日本語でその数字を読んだ時のみ俳句や短歌を想起させるという形をとっています。またこの曲の最後には、今回の7115 by Szekiとのコラボレーションの記念に「7-1-1-5」という数列もこっそりと音楽の中に隠れています。

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7115: 2019年にツェムリンスキー賞を受賞した際、受賞記念としてCCMフィルハーモニア管弦楽団とCCMバレエアンサンブルによる管弦楽とダンスのための委嘱を受けたようですが、声やダンスが(音楽)創作に加わる場合、あなたの創作過程はどのように変化しますか?

Aya: 声やダンスとのコラボレーションは、人間の身体性との対峙だと常々感じています。観客とのコミュニケーションの方法が、他の形式のコラボレーションとは少し異なるんです。

このバレエ作品は2020年、私がノルウェーのベルゲン市のアーティスト・イン・レジデンシーに滞在中、Covid-19の蔓延で突如オランダの自宅に帰れなくなってしまっていたとき(国境封鎖時)に書き始めました。ノルウェーの孤立した場所から奇妙な世界を見ていると、ふとある問いが浮かんだんです。…私たちは何をコントロールし、何にコントロールされているのか?

私が特に興味を持っているのは、ダンサーがコントロールしたくてもできない(身体的)動きです。この作品は、全体を通して、ダンサーとオーケストラの双方から様々な「呼吸」が聞こえます。私は、呼吸こそ人間のごく自然で有機的な動きであり、(踊っているか楽器を演奏しているかに限らず)ときにコントロールをもできないものであると考えています。いくらバレエ作品の美しい役を担っていても、人間である限り呼吸を止めることはできないのです。もしくは、ステップの足音を完全には止めることはできませんし、いくら空中に長くいたいと望んでも重力に逆らうようなジャンプの動作はできないのです。

最初の3分30秒は、オーケストラによって作られた「コントロールされた呼吸音」と、ダンサーによって作られた「コントロールされていない(コントロールできない)呼吸音」で構成されています。また、誰が誰をコントロールしているのかという役割も曲中で変化し続けます。ときに、私(作曲者)が「楽譜」を通じてオーケストラ

やダンサーを操り、また彼ら自身が、楽器を演奏する、オーケストラのというコミュニティで演奏する、踊ることによって生まれる身体的な動きの制限によって操られることもあるのです。つまり、この曲は、ダンス、オーケストラ双方での「コントロールしたくてもできない動き(それを有機的身体動作と呼びました)」にインスピレーションを受け作品を書きました。

7115: 創作時の行き詰まりやプレッシャーをどのように乗り越えていますか? あなたの人生に取り入れたい重要な実践や学んだ教訓は何ですか?


Aya: そうですね...まだよく分かりませんが、最近、何もしないことがどれだけ大切なことなのかを理解するようになったように思います。文字通り何もしません。ソファに座ってキャンドルを灯し火のゆらめきを眺めたり、空を見上げたり。猫のようにただいる。気分が良くなれば、散歩をすることもありますが...音楽は聴きません。そういうことを続けてどうにかやっているというような感じです。

私にとって作品を作る上で最も重要なことは、毎日少しでも創作に取り組むことです。これは私にとって「クリエイターのワークアウト(筋トレ)」のようなものであり、まさに日々のトレーニングルーティンです。定期的に作曲をしないと、技術的な(もしくは創作思考の)低下を感じるんです。「筋肉」が弱くなり、以前は簡単にできていたことが身体的、精神的にも難しくなるのと似ています。

私は、作曲家にとって「ワークアウト(筋トレ)」はたとえそれがわずかな量であっても毎日音楽を書くことだと信じています。私は「何かを生み出す」という精神状態は、作家が意図的に維持しなければならないものであり、それが保たれるようにする必要があると考えています。それほど何かを生み出すというのは膨大な量のエネルギーを消費する行為だと思います。

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7115: 次に楽しみにしていることは何ですか? 新しいテーマや活動、または探索してみたいものがあれば教えてください。

Aya: クラシック音楽や現代音楽(と呼ばれているもの)が日常生活で偏見なく聴かれるようになることを願っています。「今日の夜は、和食じゃなくてピザだな。」くらいの何気ない選択肢の1つになれば嬉しいです。私も毎日家でクラシック音楽を聴くわけではありません。ポップスやジャズ、あるいはポッドキャストを聴くこともあります。

誰かと一緒にいることで、想像していたよりもずっと遠いところまで行けるようになったり、気づかないうちに誰かの手を引っ張っている自分に気づくこともあります。私は音楽を通して、聴衆と新しいコミュニケーションや距離感を確立したいなと思っています。今年は、11月30日にコペンハーゲンの美術館にて弦楽四重奏、ダンス、彫刻のための新作を発表する予定です。




2014年桐朋学園⼤学⾳楽学部作曲科を卒業。2016年デンマーク⾳楽院作曲科修⼠課程を卒業。これまでに作品 が⽇本をはじめ、世界各国でCurious Chamber Players、Arditti Quartet、デンマーク放送交響楽団をはじめ様々な演奏家に演奏される。2019年ツェムリンスキー賞受賞。2020年より2年間、コペンハーゲンにある⽂化施設「チボリ公園」に所属する世界最古の少年少⼥⾳楽隊「チボリガード」の委嘱作曲家を務めた。2022年ルチアーノ•ベリオ作曲賞ファイナリスト、2023年ガウデアムス賞ファイナリスト。

AYA'S EDITS

Signature Quilted Vest - Oatmeal
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Signature Dolman Shirt - White
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Signature Wide-Legged Trouser - Canvas Edition - Black
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Signature Open Fall Coat - Classic Edition - Black
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